to English
 居合道は長い歴史を誇る日本の古武道です。今から約440年前の足利時代末期・永禄年間に奥州出羽の国(現在の山形県村山市)の林崎甚助源重信(はやしざきじんすけみなもとのしげのぶ)という武士が林崎明神に祈願修行を重ねた末、抜刀術の極意を会得して「無双神伝林崎流」を創始したのがそのルーツと言われています。以来、様々な流派に分かれながら四百数十年のときを超えて今日に伝承されています。例えば、劇画や映画で皆さんもご存知の「子連れ狼」の主人公・拝一刀(おがみいっとう)が使う「水鴎流(すいおうりゅう)」も実在する居合道の一流派です。私達が修行するのは「無雙直傳英信流(むそうじきでんえいしんりゅう)」という流派で、初代・林崎甚助公から、現代まで伝承されている居合道の根本流派であり、もっとも伝統ある流派です。

<林崎甚助源重信公像>
居合道と聞かれると、「座頭市」の仕込杖の居合抜きを連想される方が多いかもしれません。しかし、あれは映画の中でのフィクションであり、抜き身で1キロ前後もある日本刀を片手で、しかも逆手に持って、あのように素早く振り廻せるものではありません。「静中動あり」、「動中静あり」と言われるように、動作はもっとゆったりとしたものです。 居合道の極意は「鞘の内(さやのうち)」にありと言われ、剣を抜いてから打ち合う剣道の「立合(たちあい)」に対する「居合(いあい)」、即ち、鞘離れ、抜刀の瞬時に相手を制し、勝敗を決するのが居合道です。
 居合道は元来、敵の不意の襲撃に備え、それを討ち果たす剣の技の集大成ですが、今日にあっては、古来より伝承された居合道の形の練習を通して、健康な身体を鍛錬するとともに、礼儀を重んじ、謙虚に学ぶ心や他に感謝し敬愛する広い心を養い、いつ如何なる時にも動揺せず、まわりに対処できる集中力と強い精神(平常心)を養うことを目的としています。
 「居合とは 人に斬られず 人斬らず、己を責めて 平らかの道」という古歌は、居合道の真髄を歌ったものです。居合は一人で粛々と形を修錬するもので、人と勝ち負けを競うものではありません。敵を想定しながら、抜き付けや切り付け、納刀などの古来より伝承された業(わざ)を行います。いわば己との戦いであり、動きながら自分自身に向きあう修行でもあり、「動く禅」(動禅)とも言われます。居合道は、集中力を鍛え心身を錬磨するのに役立ち、心の安定をもたらしてくれます。しかも、腕力に頼る格闘技ではありませんので、年齢や男女を問わず、だれでもが親しめ、長く続けることのできる武道なのです。